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経口摂取再開のタイミングを誤らないために

2025/11/11

こんにちは、plus-STの渡邉です。

 

わたしたち言語聴覚士は、「経口摂取をいつ、どの形態で再開するか」の実質的な決断を迫られることがあります。

患者さんやご家族は、1日でも早く食べたい・食べさせてあげたいと願っている。

けれど病棟からは「本当に大丈夫?」と慎重な意見も聞こえてくる。

 

“食べる”ことの専門家である言語聴覚士として、希望を叶えたい/安全を守りたいという2つの考えの狭間で葛藤した経験がある人は、少なくないと思います。

どんなに勉強しても、教科書通りの患者さんなんて1人もいません。

だからこそ、その患者さんごとに悩むのですよね。

機能だけでは測れないもの

嚥下評価を行うとき、施設によってはVFやVEなどを行えないこともあると思います。

そんなときこそ、言語聴覚士が行う評価が重要になってきますよね。

嚥下反射の有無や惹起にかかる時間・そのタイミング、喉頭挙上や誤嚥の有無など、外からは見えない部分も含めて各種の評価を行い、

その結果を総合し、現時点で「食べられるか/食べられないか」「食べられるならなにか」「どういう条件であれば食べられそうか」「食べられないならなにをすべきか」などの判断を行い、チームに共有していきます。

 

経口摂取には、栄養を摂取すること以上の意味があると思うのです。

「食べることは生きること」といった言葉もあるように、“食べる”という行為は“生きる”ことと直結しています。

言語聴覚士の方なら、実感する機会も多いのではないでしょうか。

 

経管栄養だった方が、たった一口のゼリーで目の輝きを取り戻す瞬間に、幾度となく立ち会ってきたと思います。

食べるという行為は、健康なときには当たり前のものとして意識されないことも多いですが、味・におい・温度・食感などが生きている実感に繋がり、幸福度を上げてくれるものといえます。

ただ、だからこそ、わたしたちは患者さんの希望を叶えてあげたい気持ちが強くなり、ときに勇み足になりやすいことを自覚しなければなりません。

希望と安全の間で揺れるとき、どうやって両立するポイントを探っていくのか、冷静に言語聴覚士としての視点で考える必要があります。

「期待に応えたい」けれど…

経口摂取再開時、わたしたちは患者さんやご家族のことだけではなく、自分が他の患者さんとリハビリをしている間や仕事を終えて帰宅した後など、自分が関わっていない時間帯の患者さんの状況や、患者さんにかかわるスタッフのことを考えなければなりません。

経口摂取の再開を早まったばかりに、その後痰が増えてしまう・夜間熱発するといった可能性はゼロではありません。

痰が増えたり、熱が出たりすることで患者さんの体力はさらに削られてしまいますし、
また、夜間や早朝にその対応をするのは、わたしたちではなく病棟に勤務するスタッフですよね。

自分がタイミングを誤ることで、患者さんを危険にさらすだけではなく、病棟スタッフの仕事を増やしてしまう可能性もあります(だからこそ、経口摂取に慎重な意見が病棟から出ることも頷けます)。

 

「本人の願いを叶えたい」「ご家族の喜ぶ顔が見たい」

誠実な支援者として当然の想いではありますが、1度立ち止まる勇気を持ってくださいね。

万が一誤嚥してしまったときにすぐ回復するだけの体力はあるか、継続的に経口摂取していけそうな見通しは立つかなど、冷静に判断しましょう。

 

もちろん、人生の最終盤など、多少のリスクを冒してでも経口摂取に踏み切るケースもあるとは思いますが…

1度チャレンジしたけど「やっぱりダメだった…」という経験は、患者さんの心にも大きなダメージを与えることになりかねません。

機能的な面だけではなく、患者さんを取り巻く環境など、総合的な情報から判断するようにしましょう。

「食べる」だけではない支援

患者さんやご家族、もしかしたら病棟からしても、食べられた/まだ食べられないという二択で、言語聴覚療法の成果を捉えることがあるかもしれません。

けれど、そこに至るまでのプロセスこそ重要ですよね。

 

なんらかの原因により食べることを一旦保留している現状から、口腔内の環境を整え、嚥下機能を正しく評価し、必要に応じてトレーニングをし、取り巻く環境も整え、経口摂取というゴールをめざす。

この長い道のりにおいて、患者さんの「食べたい」という希望に寄り添い、その灯りを守ることも言語聴覚士の大切な仕事の1つだと思います。

 

もちろん、不可能なものを期待だけ抱かせることは避けるべきですが…

思い出の味について尋ねたり、食べられるようになったら食べたいものをリストアップしたり。

これからやってくるであろう大切な一口に想いを馳せて、今やるべきリハビリのモチベーションに繋げることも、伴走するわたしたちにできることではないでしょうか。

おわりに

「食べたい」という願いは、生命の根源的な欲求です。

だからこそ、経口摂取再開の判断は、最も繊細で重い問題でもあります。

 

焦らず、でも諦めず。

自分の判断に自信を持てずに身動きがとれなくなることもあるかもしれませんが、患者さんの食べる喜びを再度引き出すために、わたしたちが専門家としてできることをやっていきましょう。

執筆者:渡邉睦美(言語聴覚士)

このコラムでは、臨床や経験に基づくこと、豆知識、最新情報など様々な内容を扱います。
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