リハビリ時の姿勢のこと② 座位か、臥位か、立位か
2024/09/18こんにちは、plus-STの和久井です!
前回の姿勢に関する記事(リハビリ時の姿勢のこと① 姿勢について考える 予定の組み方のコツ)で、その人の時間軸を考えること・周りとのコミュニケーションが大事と書きました。
今回は、より具体的なリハビリ姿勢の選択について、言語聴覚士の視点から考えてみます。
言語聴覚士は、授業で基礎運動学を学ぶことがありません。
できる限り”伝わりやすさ重視のやわらか表現”(運動学のことばを使わない)で書くように心がけてみました。
目次
その人の生活を想像して、考えること
これがどうして必要なのかというと、言語のリハビリ中に、姿勢を意図して変える必要があるか?変えるメリットがあるか?を検討する上で、普段からの活動量や、30分以上座っている場面が日常的にあるかどうか、知っておく必要があるからです。
例えば、昼間は何をしていることが多いのか?
実は横になっていることが多い場合、長時間座位でいることでかなり疲労するかもしれません。
耐久性という観点では、アクティブに動く(呼吸発声練習など)時間を絞った方が良い場合もあります。
患者さんに直接聞くことも大事ですし、家族などの周りの人や担当PTOT、病棟に情報収集することも大事です。
特に担当のPTOTに知ってもらうことで、座位で活動するための体幹の支持性、持久力を上げることや背もたれなどの環境調整が必要だと気付いてもらえることもあります。
どれが最適かは、活動の種類と身体機能によるためケースバイケースです。
リハビリの時の姿勢バリエーション それぞれのいいところ悪いところ、個人的にどう選択しているか
突然のランキング形式にて失礼します(? 頻度順です。
👑ランキング1位👑
【座位】
耐久性◎ 覚醒〇 活動性△
椅子座位、車椅子座位など
●STリハ視点のポイント
・移乗が大変な人は無理しないで車椅子で行う
転倒するリスク、手や足を傷つけるリスク、介助しやすい姿勢がとれるかどうかなど考慮
それでも椅子に移乗するメリットが大きい場合、PTに相談します。
その場合は、『発声発語のどこが問題で、原因がどこにあると考えていて、どういう練習を、どのくらいの時間したいか、どうしてその姿勢がとりたいのか』を事前に考えていくと伝わりやすくて良いです。
また、移乗が不安な場合、最初は担当PTなどと2人以上で介助するのも問題点が見つけやすいのでおすすめです。
・車椅子の場合、足をおろした方が良いかは環境と足の長さと麻痺次第
・本人にも快適かどうか聞きながら行う
・いい姿勢を保つ
骨盤ができるだけ起きるように背もたれを調整、硬めのクッションを挟むなど、背中が伸びて肋骨が動きやすいように、感覚刺激を入れておきます。
少なくとも、最初に深呼吸をするときや肩甲骨を動かすときは胸椎~腰椎のあたりが曲がらないように、手を添え、触れて、感覚を入れていることが多いです。
ただ、力加減が難しく、PTに相談して実技練習をしてもらうのもかなり重要です。
特に失調症の方は、両サイドから胸郭をがっつり支えて重心を高く保てるように支えたりもします。
座位姿勢に関しては、ググるだけで結構出てきます。初学者にはありがたいです。
『カラダの先生 座位姿勢を学ぶ上で抑えておきたいポイントとは』
順を追って深掘りしてくださっています。分かりやすい!
私のこの記事を不安に思いながら読むよりも効率的です!!笑
『理学療法士が語る!からだの豆知識 座位姿勢編』
こちらもめっちゃわかりやすい。
『WAMNET 第10回 食事姿勢』
介護する視点から、PTの方がまとめてくださっています。分かりやすいです。
👑ランキング2位👑
【臥位】
ラクさ◎ 耐久性◎ 覚醒△
●STリハ視点のポイント
・臥位を選択するときは大きく4パターン
①【頭部の重さ】頭が重くてまっすぐ支えていられない時
②【胸郭の固さ】上半身が固くて胸郭が動かなさすぎる時
③【代償動作のコントロール】舌運動時に頸部過伸展位・下顎引き込みなど、過剰な力が入ってしまう時
④【耐久性】そもそも座位の耐久性がないとき
●注意点
・OHに注意:臥位から起き上がるときに急に起きると起立性低血圧を起こす場合があることを念頭に起居動作はゆっくりと促します。
・覚醒が低くなる場合、背中が挙げられるギャッジアップタイプのプラットホームを選択すると良いです。
・そもそも、STがリハビリ室のベッドを使える雰囲気にないところも多いと思いますが、座位のところに書いたように・・まずは、『どこが問題で、原因をこう考えていて、どういう練習をしたいか、どうしてその姿勢が必要なのか』を伝えて事前に相談しましょう。
👑ランキング3位👑
【立位】
活動性◎ ラクさ〇 耐久性△
ここでいう立位は、ST室内で完結できるような壁に背中をつけた立位か、椅子またはプラットホームに端座位+立ち上がって前方の高さ可動性の台を使ってまたは前方でセラピストの肩に手を置いて、上肢で支えながら立つこと、を想定しています。
●STリハ視点のポイント
・立つことで、背中が丸まらずに身体が伸びたまま呼吸発声練習ができる
・お腹に力が入りやすい
●注意点
・転倒や疲労などのリスク管理に十分気を付ける(OH、転倒、立位保持の時間、どの立位がよい立位なのかの基本的な知識)
実際に座位ではない姿勢に変えて行う例
姿勢を変えながらリハビリを行った実際のケースです。
【いろいろな事例 外来ケース】
・首を伸ばして顔をあげておくことが難しいが、口腔のストレッチや運動を促したい
→ 臥位+ギャッジアップ もしくは 壁に背中を付けた座位
・よだれが気になって開口維持がしにくい時
→ 臥位+ギャッジアップ その後端座位
・頸部に疲労や疼痛があり、リラクゼーションが必要な時
→ 臥位(仰臥位)
・舌運動時に自身で代償運動がコントロールできない時
→ 臥位(できればギャッジアップ)
・末梢性顔面神経麻痺の患者さんの顔面マッサージ時
→ 臥位(座位である必要性が少なく、お互いに姿勢が楽)
・呼吸に必要な筋が固くなっているとき
→ 臥位(側臥位・仰臥位)
・腹部を安定させて活動を促したいとき
→ 立位(壁に寄りかかりながら もしくは お腹を台で支えながら)
・座った状態だと骨盤が後傾したままでどうにもならない時
→ 立位(向かい合ってこちらの肩に手を置いてもらいながら)
それぞれ、身体機能的にできることやできないことなどありますが、こう書き出すと意外と臥位をよく利用しています。
状態次第、自分で判断しきれないところは安全策をとる
上記で色々な姿勢に関して書いてきましたが、もちろん、自分の技量や経験を考えて安全策をとることはとても重要な判断です。
特に移乗や立位は、起立性低血圧や転倒のリスクが高くなります。
負荷をかけすぎると疲労の原因にもなります。
ただ、リスクがあるからといって避けてばかりいないほうが良いこともあるので、PTOTST問わず、臨床経験の豊富なセラピストに相談してみるとよいと思います。
●おまけ
施設訪問や訪問リハビリなどの個人的な経験を経て・・・
ギャッジアップ座位は、病院ではよく出てきますが急性期回復期病院を抜けると適用する場面はかなり限定されてきます。例えば入所型の施設では少ない介助スタッフが交代交代で介助することがほとんどなので、基本的に車椅子に乗れる方は毎回食堂に出てきて食べることがほとんどだと思われます。
車椅子乗車時間も、生活の都合上想像をはるかに超えて長くなります。
「日中は起こしておいてほしい」という家族からの希望があれば、朝食から夕食まで12時間ほどずっと車椅子座位の場合もよくあります。
ギャッジアップ座位は、在宅でほぼベッド上の生活の状況で、適用するくらいでしょうか・・?
姿勢については思うところがたくさんありすぎるので
このコラムはおそらく過去最長になりました。笑
姿勢に関してはPTさんにも目にしてほしいことでもあるので、全体公開にしておきたいと思います。
どこかのSTさんの、日々の臨床のヒントになれば嬉しいです。
このコラムでは、臨床や経験に基づくこと、豆知識、問題提起など様々なトピックを扱います。
執筆者は企画の和久井のほか、色々な職場・働き方・ジャンルで活躍されている言語聴覚士に依頼していく予定ですので、リクエストもお待ちしています。
コミュニティもしくは 「お問い合わせ」フォームまで、皆様のご意見・ご感想をお待ちしています!
執筆者 和久井和佳子(言語聴覚士)
【略歴】
2010年 言語聴覚士 取得
・公益社団法人発達協会(療育指導)・東京さくら病院(回復期病院)
2014-2022年 順天堂東京江東高齢者医療センター
・施設訪問自費リハビリ(業務委託)・支援学級指導員(非常勤・東京都)
・訪問リハビリ(非常勤・東京都)・児童発達支援事業所(非常勤・東京都)
2022年10月〜 新浦安内科・脳神経内科クリニック(常勤・外来リハビリ・千葉県浦安市)