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進行性失語のリハビリテーション―言語聴覚士ができること、ことばのリハビリの実際

2024/09/3

plus-STの和久井です。
今回は進行性の失語症についてです。

進行性失語 一般社団法人日本高次脳機能障害学会 教育・研修委員会:編 2019年発行

こちらを参考にしながら、最近の文献も交えて紹介していきます。
外来での言語リハビリについても触れます。

進行性の失語症の患者さんと出会う機会は少ない?

成人・高次脳機能障害領域で活躍する言語聴覚士のうち、急性期・回復期病院(などの入院施設)で勤務されている場合、入院患者さんに対する失語症評価と訓練が多いので、そもそも『進行性失語症』の患者さんの症状に触れる機会があまりないと思います。
それもそのはずで、言語症状が主であり、初診時は日常生活は問題なく送れている方が多いからです。
後に診断基準を紹介しますが、進行性失語とは、ざっくりですが、認知機能低下が起こらず進行していく失語症状、または、認知症に移行していく前段階として現れる著明な失語症状、と捉えると良いかと思います。
「または」と書いたのは、定義やタイプ分類はまだ確立したものではなく、また、捉え方の違いや変遷は認知症の枠組みの中の一臨床症候としてとらえるアプローチと、失語症の一臨床症候としてとらえるアプローチとが存在しているなどとあるようです。
これは今回まとめていくうちにたどり着いた、アプローチの違いです。参考とした「進行性失語」は、基本的に失語症の側面からとらえています。
また、そもそも、タイプ分類なども含め英語圏で考えられた概念が日本語話者に適応するのか?という根幹的な問いもあります。

・・・ただ、正直、細かいところまでは、難しくて私は8割くらい理解するだけでいっぱいいっぱいです。すみません!

進行性失語について、詳細はこちらもご参照ください。

進行性失語の概念と診断 池田学 2013

原発性進行性失語症 西田勝也 2015


上記の文献のなかで、池田先生は、基本は認知症としての全体像を把握したうえで失語症状の評価をするべきだと思うが、早期発見・早期リハのためには進行性失語症としての捉え方も有用、と述べています。

原発性進行性失語(PPA)の定義

『原発性進行性失語(PPA)は、変性疾患における一臨床症候群である。』(進行性失語 大槻 2019)

1982年に、Mesulamによる論文で “全般的な認知機能低下(認知症)を伴わない緩徐に進行する失語”が、変性疾患で出現しうることが報告されて以来、注目され始めた概念のようです。

PPA であることの診断基準(2011年 Gorno-Tempini らによる文献より)

必須項目(下記1~3のすべてを満たす)
1.言語の症状が、最も顕著な臨床的特徴である。
2.言語の症状が、日常生活を阻む主たる要因である。
3.失語が発症時および病初期において最も顕著な障害である。

除外項目(下記1~4 を否定しなければならない)
1.初期から明らかな行動障害がみられる。
2.言語症状の障害パターンが他の非変性性神経系障害や内科的疾患によって説明がつく。
3.認知機能障害が、精神科的疾患によって説明がつく。
4.初期から明らかなエピソード記憶障害、視覚性記憶障害、視知覚障害がみられる。

参考

原発性進行性失語:診断基準(2011)から 10 年の変化(小川七世、鈴木匡子、2021)

PPA概念のポイントは、全般的な認知機能低下がない、あるいは、低下が多少あってもそれだけでは説明できない言語に特化した障害が初発かつ前景に立つということです。

個人的にも、確かに見当識や礼節や社会性はしばらくの間保たれ、いわゆる認知機能低下や認知症、と表現するよりは複雑に進行する高次脳機能障害に近いと感じています。ただ、進行に伴って身だしなみがルーズになってきたり、お風呂に入らないことが増えたり、決まったパターンのこだわりが増えたり、突飛と思われてしまう行動をするなどの症状が出てくることが多いです。

リハビリの実際は・・・?

訓練方法は、基本的には脳血管性の失語症へのアプローチ・評価(SLTA、WABなど)をしていくことになると思いますが、本にもあるように、今日できた課題が、次回お会いするときにできるかどうかは分からないこと、そのつどやりとりをしながら評価をして、マイナスの意味で症状の変化に置いていかれることがないようにしたいです。

私の外来でも数例担当していますが、だいたいの患者さんが「家で宿題をやってきたい」とリクエストしてくださるので『どのレベルの課題であれば自力で8割できるか』を見極めるのに毎回試行錯誤しています。もちろん、時と場合に応じて、ご家族様の手助けをお願いすることもあります。
ドリル形式の方が宿題としては取り組みやすいこともあり、『失語症訓練のためのドリル集』シリーズをレベルに合わせて使っています。

失語症訓練のためのドリル集 シリーズ 重宝しています…

簡単な単語で、宿題を文字や図にして示すなど、言語に頼らずに視覚化することも大切だと思っています。

言語機能自体の大きな改善は難しいけれど、「コミュニケーションの評価・家族へのアドバイス」「言語以外の面のプラスの評価」「本人・家族のこころに寄り添うこと」はできる

中川良尚先生もこの本の【リハビリテーション】の章で触れていますが、そもそも、進行性失語に対する「STの介入意義に疑問を持つ方」もいらっしゃると思います。進行性失語症は、進行していくのが基本にあり、大幅な改善は難しいからです。

ただ、実際に症状に直面して思うのは、STでないと判断や解釈ができない言語症状はたくさんあり、認知症の症状含めてこの先起こりうる日常生活上の不具合を予測できるのもSTであり、社会資源を早めに準備できるよう促せるのもSTであり、なにより『喋りにくさを理解してくれて、良くしようと一緒に悩んだり一緒に考えてくれる場所であること』が、現状、STリハの一番の役割だと感じています。ご家族様の病状理解の促進という面でも、STリハの時間は少なからず役に立っていると思います。

また、言語障害が目立つため、本人家族ともに「できないこと」に目が行きがちですが、例えば家庭内の役割はしっかり果たしていることや、困ったときに人に聞くことができるなど、行動面でのプラスのフィードバックも欠かさないようにしたいと心がけています。

疾患の特性上言語症状自体を大幅に改善することは難しいけれど、ご本人の困り感に一番寄り添える大切な役割を担っていると感じています。

このコラムでは、臨床や経験に基づくこと、豆知識、問題提起など様々なトピックを扱います。
執筆者は企画の和久井のほか、色々な職場・働き方・ジャンルで活躍されている言語聴覚士に依頼していく予定ですので、リクエストもお待ちしています。
コミュニティもしくは 「お問い合わせ」フォームまで、皆様のご意見・ご感想をお待ちしています!

執筆者 和久井和佳子(言語聴覚士)
【略歴】
2010年 言語聴覚士 取得
・公益社団法人発達協会(療育指導)・東京さくら病院(回復期病院)
2014-2022年 順天堂東京江東高齢者医療センター
・施設訪問自費リハビリ(業務委託)・支援学級指導員(非常勤・東京都)
・訪問リハビリ(非常勤・東京都)・児童発達支援事業所(非常勤・東京都)
2022年10月〜 新浦安内科・脳神経内科クリニック(常勤・外来リハビリ・千葉県浦安市)

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