「効果が見えない」にどう向き合う?
2025/10/7
こんにちは、plus-STの渡邉です。
言語聴覚士として臨床に立っていると、「なかなか効果が見えない」と感じる場面に出くわします。
特に筋萎縮性側索硬化症(ALS)やパーキンソン病などの進行性疾患では、どんなにリハビリを重ねても残存機能が少しずつ失われていくため、支援者として無力感に襲われることもありますよね。
また、患者さん本人やご家族に対して申し訳なさを感じたり、焦りを抱いたりすることもあるのではないでしょうか。
「自分が言語聴覚士としてできることはこれっぽっちなのか」「自分が関わる意味はあるのだろうか」と自問自答する経験は、きっと多くの言語聴覚士に共通しています。
そこで、進行性疾患の臨床における「効果が見えない」ときの向き合い方を考えてみました。
目次
「効果」のものさしを広げる
進行性疾患の評価において、発話明瞭度や摂食状況レベルの向上といった機能面の改善は、限定的となる傾向が強いです。
その数値だけを鵜呑みにしていると、自分の言語聴覚士としての関わりは「効果がない」という結論に達します。
しかし、本当に効果がないのでしょうか?
たとえば、ALSの方が「今の食形態では安全な食事が難しくなってきた」と感じたときに、検査や訓練を通して正確なリスクを把握し、適切な食形態を見極めることができるのは、言語聴覚士であるわたしたちです。
言語聴覚士の介入によって、窒息や誤嚥性肺炎を予防できる確率が上がります。
また、専門知識に基づいて補助具や代替手段の提案・導入をすることで、患者さんの生活の幅を広げられると同時に、家族の負担や不安を軽減できるかもしれません。
さらに、患者さん自身が自分の状態を適切に把握できること、今後について考えられること、自分の残存機能について「できることはたしかにある」と認識できるよう働きかけることは、わたしたちの大きな役割ではないでしょうか。
検査の点数には反映されないこういった変化や精神面の安定は、患者さん・ご家族の生活を支えることに繋がります。
焦りを学びに変える
進行性疾患の場合、どんなに密に支援しても病状は少しずつ進みます。
その事実を前に、「自分はなにもできていないのか」と焦ることはごく自然な流れです。
しかし、この焦りこそが、わたしたちが成長するきっかけになります。
たとえば、「本人のことばが聞き取りづらくなってきた」とご家族から相談されたとき、発話訓練を繰り返しても限界があると気付いたなら、他の手段(書字やコミュニケーションアプリの操作など)で実用的に使えるものがないかを検討します。
あるいは、「水分でむせるようになってきた」と困り感を抱いているのなら、とろみ剤を使う・コップの種類を変える・ストローを使う・姿勢の調整をするなど、機能面への直接的なアプローチ以外の支援策を検討します。
また、そのときの状況に合わせて必要な支援の選択肢を紹介することもできますよね。
たとえば、介護保険の申請や地域包括支援センターの紹介、在宅であればレスパイト入院の情報提供などもその1つです。
つまり、「効果が見えない」という焦りは、自分の支援を多面的に見直すきっかけとなり、言語聴覚士としての臨床力を底上げさせる第1歩になります。
存在しつづけることの安心感
進行性疾患における支援のゴールは「機能を改善する」ことではありません。
病状の変化に合わせてその人らしい生活を支え、本人もご家族も悔いなく最期に向かうことだと思います。
以前担当した方は、「食事がとれなくなっても家族と食卓を囲みたい」とおっしゃり、その言葉通り、経管栄養になってからも夕食時には必ずダイニングへ出られていました。
医師の許可の下、体調が良い日には家族の食事から食べられそうなものを一口分けてもらう…なんてことも。
振り返ればその期間はとても短かったものの、「無理だと思い込んでいたことを実現させてくれてありがとうございました」と、のちにご家族からとても感謝されました。
もちろんこの時間は、言語聴覚士の働きだけではなく、医師の判断や理学療法士によるポジショニング指導など、多数の職種による連携があって実現しています。
こうして変化に対応しながら生活の質を守り、本人やご家族の満足度を上げることができるのは、“言語聴覚士としてその方の生活に存在するから”こそだと思います。
くわえて、「会話が難しくなっても自分の話を聴いてくれる人」「自分の声にならないことばを拾い上げて家族に伝えてくれる人」として患者さんから認められる存在になれるのは、言語聴覚士の特権であり、その存在が患者さんの心の支えになることは言う間でもありません。
寄り添い続けること自体が自分の存在意義である――
この視点は、忘れずにいたいですね。
さいごに
まじめな人ほど、「自分の訓練は効果がない」「自分はなんのためにいるんだ」と悩み、葛藤するかもしれません。
けれど、専門家であるわたしたちが迷いながらも試行錯誤し、歩みを止めないこと。
それが、患者さんやご家族にとって、大きな支えになるのではないかと感じています。
執筆者:渡邉睦美(言語聴覚士)
このコラムでは、臨床や経験に基づくこと、豆知識、問題提起など様々なトピックを扱います。
執筆者は企画の和久井のほか、色々な職場・働き方・ジャンルで活躍されている言語聴覚士に依頼していく予定ですので、リクエストもお待ちしています。
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