【嚥下】完全側臥位法とは?
2024/11/26皆さん、こんにちは。plus-STの黒木です。
今回は『重度嚥下機能障害を有する高齢者診療における完全側臥位法の有用性』という原著論文を元に、「完全側臥位法」についてまとめていきます。
私自身もとても気になっていた内容なので、皆さんと一緒に学べたらと思っています!
今回のコラムは以下の文献を元に記載しています。
目次
誤嚥性肺炎とは
私たちが臨床で関わることの多い疾患の中に「誤嚥性肺炎」があります。
誤嚥性肺炎とは、嚥下障害のため唾液や食べ物、あるいは胃液などと一緒に細菌を気道に誤って吸引することにより発症します。口腔内の衛生状態が不良で細菌が増殖することによって誤嚥性肺炎のリスクを高めるとも言われており、日々の口腔ケアが予防につながります。
一般社団法人 日本呼吸器学会 市民のみなさまへ>呼吸器の病気>A. 感染性呼吸器疾患 >A-12 誤嚥性肺炎を参照
従来の誤嚥性肺炎の予防対策としては、体幹角度調整(リクライニング位)、口腔ケア、嚥下リハビリテーション、食形態の調整、薬物療法などの報告がありますが、それでは解決できない部分があるのも事実です。
「高齢者が誤嚥性肺炎を一旦発症すると、不適切な食事中止や症状安静により容易にサルコペニアの進行を来たし、症状、予後悪化の一因となり得る。」と記載があるように、誤嚥性肺炎が原因となって死亡退院される患者さんが多いのも現実です。
完全側臥位法とは
完全側臥位法とは福村らにより報告された「重力の作用で中~下咽頭の側壁に食塊が貯留しやすくなるように体幹側面を下にした姿勢で経口摂取する方法」と定義される誤嚥予防のための嚥下補助技法です。完全側臥位法は咽頭側壁に大きな食塊貯留スペースが形成され、嚥下前誤嚥と嚥下後誤嚥のリスクを減らすとされています。
元々はリハビリテーション病院での偽性球麻痺症例の嚥下リハビリテーションに導入されており、同方法の高齢者診療における有用性を検討しよう!というのが今回ご紹介する論文です。
下に完全側臥位法の体位の図を掲載します。
※文献9):福村直毅,牧上久仁子,福村弘子,田口 充,大澤麻衣子,茂木紹良:重度嚥下障害患者に対する完全側臥位法による嚥下リハビリテーション 完全側臥位法の導入が回復期病棟退院時の嚥下機能とADLに及ぼす効果.総合リハビリテーション 2012;40:1335―1343.
高齢者診療への有用性
ここからは、論文の内容を要約しながら書いていきます。
【対象(完全側臥位群)】
VEの際、喉頭侵入、誤嚥、高度の咽頭残留などが確認され、従来の誤嚥予防対策(上記のもの)のみでは安全な経口摂取が困難な重度嚥下機能障害(藤島嚥下グレード1~3)と診断され、完全側臥位法が導入された65歳以上の全ての患者47例
【対照群】
完全側臥位法が導入されていない期間に入院し、重度嚥下機能障害(藤島嚥下グレード1~3)と診断された65歳以上の患者34例
→口腔ケア、嚥下リハビリテーション、栄養療法に完全側臥位法導入前後で変更は認めていない。
上記の2群で比較した結果は以下の通りです。
①完全側臥位群での経口栄養での退院症例が、対照群と比較して有意に増加(26.5→53.2%)した
②完全側臥位群の経口栄養症例25例中13例は再び座位姿勢でも安全な食事摂取が可能となり退院した
③対照群、完全側臥位群ともに、死因病名としては老衰が最も多かった
④完全側臥位群では有意に死亡までの欠食期間の短縮(17.3→7.3%)が確認された
⑤完全側臥位群の75%の症例が亡くなられる数日前まで誤嚥性肺炎を発症することなく安全に経口摂取を継続することが出来た
以上のように、完全側臥位法は重度の嚥下機能障害を有する高齢者の安全な経口摂取を可能とし、病態改善に寄与しました。
また、この病院は「摂食嚥下認定看護師」と「言語聴覚士」が不在であり、そのような市中病院でも導入可能であるということが分かりました。
リクライニングの角度設定やポジショニングは、専門家でないと難しいですよね…。
そのような中でも特別な器具、手技を要さずに低コストで、介助者の技能に依存しない高い再現性を持ったポジショニングが可能であり、安全に経口摂取を行うことが出来る。また患者さんにとっても負担の少ない体位でもあり、重症患者さんでも容易に継続が可能であるというメリットもあるようです。
まとめ
臨床をしていく中で、重度の嚥下障害の患者さんへのアプローチはとても悩みますよね。
リクライニングの角度・ポジショニングをしっかりやっても徐々に姿勢が崩れてきて、それを直して…を繰り返したり、適切なポジショニングの申し送りに関しても、病棟の忙しさを見ているとお願いするのは気が引ける…でも他の方の評価にもいかなきゃ…と悩んでいるSTも少なくないと思います。
完全側臥位法は難しい技術が必要なく、専門家でなくても同じ条件で介助を行うことが出来る方法であることがこの文献から分かりました。
臨床の検討材料に、選択肢の一つとして入れてみるのも良いかもしれません。
このコラムでは、臨床や経験に基づくこと、豆知識、問題提起など様々なトピックを扱います。
執筆者は企画の和久井のほか、色々な職場・働き方・ジャンルで活躍されている言語聴覚士に依頼していく予定ですので、リクエストもお待ちしています。
コミュニティもしくは 「お問い合わせ」フォームまで、皆様のご意見・ご感想をお待ちしています!
執筆者 黒木清佳 (言語聴覚士)
【略歴】
2019年 言語聴覚士国家資格取得
急性期~生活期まで、幅広いステージの病院勤務を経験。
現在は児童発達支援事業所に勤務。
【保有資格】
・言語聴覚士国家資格 ・臨床神経心理士 ・LSVT LOUD
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