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急性期病院で必要だったこと~経口摂取のあれこれ~

2024/12/13

こんにちは、plus-STの和久井です。

 
今回は、急性期病院での業務のうち、嚥下評価、経口摂取に伴う種々の評価にまつわることで【STの評価・訓練の技術以外に】必要だったことを振り返りたいと思います。
病院勤務のSTにとってはごくごくふつうの、日常の「あるある」かと思いますが、それ以外のSTにとっては未知の世界かもしれません。全体公開記事にするので、学生さんや、PT、OT、その他の職種のかたに見ていただくことも想定して書いています。
なお、個人的な経験に基づいているところが多々ありますので、すべての急性期病院に当てはまるわけではありませんのであらかじめご了承ください。

嚥下評価・食事評価は病院STの業務の多くを占める

 
よほど医局全体で嚥下評価に力を入れて教育している病院でなければ、医師が最初から嚥下評価をすることはまずほとんどありません。それ以外の診察や、薬の調整、検査オーダーの入力などとにかくやることが多く、時間を取られ、じっくり腰を据えて評価する時間をとることが難しいという実情もあります。
そこで、摂食嚥下認定看護師か言語聴覚士に評価依頼が来ます。
ただ、これも病院によりますが、言語聴覚士や摂食嚥下認定看護師が不在でも評価できるよう、フローチャートなどが準備されていることがほとんどかと思います。なぜなら、入院後、絶食指示であっても『必要な薬の服薬』はできるのか、本人から求められたら水分摂取はできるのか、という差し迫った問題があり、それは日中夜間問わず発生します。経口服薬困難であれば、点滴の薬剤への変更などを検討する必要があります。「ST業務の多くを占める」と見出しには書きましたが、嚥下評価が”多くを占めないように”工夫している病院も多いと思います。コストを取る・取らないの問題も難しいところです。

 

医師の役割を理解すること

 
特に診療科専門の医師は、リハビリの内容についてや、PT/OT/STそれぞれが具体的に何をしているか、何ができるか、基本的によく知りません。リハビリに興味を持ち、知ろうとしてくれる先生は普段からコミュニケーションが取れていたりするのでまた別ですが、基本的に、端的に分かりやすくかみ砕いて話すことが求められます。

そのためには、評価した結果とその後の予測、先生にどうしてほしいかを簡潔に短時間で伝えることが必要になってきますので、評価と合わせて自分の考えを他人に伝えるチカラが求められます。

また、例えば、「絶食中の患者さんが今後経口摂取が継続できるか評価してほしい」と評価依頼がきた時に、STの嚥下機能評価を踏まえて、病棟マンパワー、退院後の家族の介護力、自発性、年齢などを含めて総合的な評価として返すことが必要です。どのような形態であれば少量食べられるか、むせないか・・ではなく、主治医はそれを踏まえた評価を「嚥下評価、経口摂取評価」として求めています。

医師は、「今後の経口摂取継続のためにはどのような条件が必要で、難しい場合どうしないといけない、こういう選択肢がある」と家族に説明する必要があり、延命にあたる処置をするのかどうか、家族に方針を決めてもらう必要があります。

それがチームにおいて医師の担う役割なので、全体の方針を決定する欠かせないピースの一つとして、STからみた「嚥下評価、経口摂取評価」が必要不可欠となってくるのです。

 

医師に嚥下機能の現状と適した食事形態を伝えることの難しさ

 
現在、クリニックに勤務しているため、退院してくる患者さんのサマリーを見る立場になることが多くあるのですが、
医師の退院時指導の内容と、VFの詳細な評価との間に乖離があることがあります。
退院時に病状説明や今後について説明する医師は、入院した診療科の主治医であり、嚥下障害専門の医師ではありません。そのため、例えば退院前のVF評価で『誤嚥は認めず、送り込み障害と咽頭残留を認めたため、複数回嚥下や水分との交互嚥下による代償方法を推奨する』というSTによるVF評価だったとしても、病院で安全第一で摂っていた食事内容に基づいて、医師としては『今後は嚥下対応食で生活するように』とだけしか説明しようがないのです。
退院時に聞く医師の言葉は、思いのほかご本人やご家族様に重くのしかかります。
もちろん、その問題に気が付いている病院は、他職種同席での退院時指導なども行っていると思いますが、医師からの言葉は思いのほか力が強く、「リハビリの先生はこのくらいまで良いというけど、医師がダメと言うんだから絶対ダメなんだろう」と考えるご家族様も多くいらっしゃいます。
難しい問題だと今でも感じています。
 
そのようなケースを私が外来で担当する場合は、まずはご本人及びご家族様に嚥下障害の残存する現状を理解していただき、そのためにどのような工夫が必要で、栄養が足りるようにするにはどうすればよいか、訓練はどのようなステップを踏んでいけばよいかなどよく説明して理解していただきながら、食事形態の説明に入ることが多いです。
いきなり食事形態の説明をしても、応用が利かず、食材やお料理一つ一つに対して、どう調理すればいいか?の質問を受けなければならなくなってしまうので、大変ですが理解していただけるように指導しています。
また、これはリハビリテーション栄養の視点も加わりますが、嚥下機能の現状と合わせて、退院直後は入院前に比べて5キロ以上痩せてしまっていることがほとんどなので、まずは体重を取り戻すことを優先して、それから食事形態を上げていきましょうと励ましながら指導することが多いです。
 
 

食事を実際につくること、つくる人を想像する

その患者さんの嚥下機能を評価できたとして、毎日3食、どういうものを誰が提供するのかについても想像する必要があります。
以下はよく受ける質問ですが、

 
入院中、「おかゆ」が提供されていたけれど、今後は「おかゆ」にしないといけないか?
時々市販のお惣菜を買って済ませることができるのか?
果物は具体的にどうやって食べたらよいか?
市販のものを買う場合、どういうものであれば許容できるか?
レトルトのご飯は食べられるか?

など・・・STであれば退院前にご家族様に指導することも多いと思うのでいずれも「あるある」の質問ですが、退院後は病院食からは想像もつかないくらい多種多様なものを食べることになるため、早め早めの情報収集と食事指導が必要です。

 
また、そもそも独居の場合どうするのか?お金に余裕のある方なのか、ない方なのか?など、食事には生活の水準や環境がダイレクトに影響してきますので、踏み込んだ情報収集が必要となります。本人から得られる情報が少ない場合は、ソーシャルワーカーさんに情報を聞きに行くこともありました。
嚥下調整食についてのハウツーは、色々な介護食の本がでています。
ただ、どうしても老々介護の家庭では、もう少し食事形態が上げられそうでも、ミキサー食+とろみにせざるを得ないケースもあります。退院時指導でよく嚥下食のレトルトを紹介することがあるかと思いますが、金銭的に余裕がないご家庭だと継続は困難で、長続きしません。

 

食事場面を想像すること

 
脳卒中後の片麻痺の患者さんや歩行困難である患者さんの場合、座位保持、食事動作の問題にも直面します。入院中、PT/OTに相談することも多いと思います。

これは、リハビリ職のいない介護施設(有料老人ホーム)を訪問していた際に実際に経験したことですが、施設では、離床励行の意味も含めて「起き上がれる人は積極的に座って起きていてもらう」のが基本です。

そして、移乗の介助量が多ければ多いほど、移乗のタイミングが少なくなり、「連続座位時間」が長くなることがあります。褥瘡ができたりしていない限り、日によっては朝ごはんから入浴後おやつ~4~6時間座りっぱなしの末にお昼の食事、なんてこともあります。長時間の離床の疲労の末、片手で食事を食べなければいけない状況が施設においては起こりえます。

その可能性まで想定するには、色々なステージの暮らしを実際に見てみないと実感しにくいと思います。例えば訪問のPT/OTはADLすべてをカバーしなければいけないことも多く、食事のこともよく知っています。もし、法人内で急性期や回復期と訪問を展開しているような体制であったら、交流の機会を持ってみるとよいかもしれません。

また、就職・転職をする際にそのような複合的に展開している法人を選ぶということも、視点を広げるチャンスが持てるのでとてもよいと思います。

 

「お楽しみの経口摂取」とは

 
これはすべてのSTが一度は悩むところではないでしょうか・・・
 

”送り込みに時間がかかり非実用的、意識レベルが不安定でムラが大きい、重度の認知症など
何らかの理由で、生命維持に必要な量が摂取できないため胃ろうを造設した。十分な量ではないものの、例えばプロッカゼリー80gや、プロキュアプチプリン40gであれば、調子を見ながら摂取できる。”

その場合、入院中は経口摂取を続けることが多くあります。
病院の臨床に携わるSTであれば分かるように、経口摂取を完全にしなくなると、途端に口腔内の乾燥と汚染が始まります。口腔内の環境維持のためにも、少量でも経口摂取ができること自体は本当に大切なことですし、継続できるに越したことはありません。ただ、胃ろうがあるわけなので、継続するかどうかは必須ではありません。

施設や療養病棟に転院後は、STがいて引き継いでくれれば、「お楽しみの経口摂取」は継続できますが、それを必須に転院先を検索するのはかなり難しく、よほどのことがなければ優先はされません。(が、以前の勤務先のソーシャルワーカーさんは素晴らしい方たちばかりで、基本的に条件に入れて探して下さっていました。)

これに関しても、今でも自分の中では最適な答えは見つかっていません。

 

他職種に協力者を作っておく

 
退院支援や生活環境の支援は、主に看護師さんやソーシャルワーカーさんにお願いすることになります。具体的な相談先や、親身になって考えてくれる話しやすいケアマネージャーさんや、STがいる訪問看護ステーションなどの情報はソーシャルワーカーさんが把握していることが多いです。

定期カンファレンス以外にも個別にケースの相談をしたり、情報収集をする中で一緒に考えてもらえるよう、関係を作っておくことが大切になってきます。

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以上、病院で勤務するSTさんにとっては日常的な『あるある』の話でをまとまりなく書いてしまいましたが、視野を広くして考えることは現在でも活きているので、どなたかの参考になればと思います。


読んでくださってありがとうございます。
共感や質問などのコメントもお待ちしております!

このコラムでは、臨床や経験に基づくこと、豆知識、問題提起など様々なトピックを扱います。
執筆者は企画の和久井のほか、色々な職場・働き方・ジャンルで活躍されている言語聴覚士に依頼していく予定ですので、リクエストもお待ちしています。
コミュニティもしくは 「お問い合わせ」フォームまで、皆様のご意見・ご感想をお待ちしています!

執筆者 和久井和佳子(言語聴覚士)
【略歴】
2010年 言語聴覚士 取得
・公益社団法人発達協会(療育指導)・東京さくら病院(回復期病院)
2014-2022年 順天堂東京江東高齢者医療センター
・施設訪問自費リハビリ(業務委託)・支援学級指導員(非常勤・東京都)
・訪問リハビリ(非常勤・東京都)・児童発達支援事業所(非常勤・東京都)
2022年10月〜 新浦安内科・脳神経内科クリニック(常勤・外来リハビリ・千葉県浦安市)

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